今夜は夜更かし、さらば現実

jazzとrockなどの音楽や洋画と洋画内の俳優に熱心なドイツ語を勉強している文学部生による

人間の土地と夜更かし

 

サン=テグジュペリ『人間の土地』と夜更かし。

 

『星の王子様』を小学生か中学生かの頃に読んで、こんな小説があるものか、とびっくりしたものでした。その作者によるエッセイ、いやエッセイと言ってしまうとどうも軽いような気がしていますが、随筆集というのが良いでしょうか。

 

サン=テグジュペリ(1900‐1944)は飛行士で、飛行機による遠距離郵便の黎明期にそのパイロットとして働いていて、『人間の土地』ではその当時の経験から綴った文章が連なっています。彼の処女作「南方郵便局」、彼の作品の中でもよく知られている『夜間飛行』は小説ですが、これらの作品でも危険をかえりみず飛行機輸送を行う人々が描かれています。両作品ともすばらしい。そして、『人間の土地』を読んだ後に読んでよかったという気持ちがしました。というのもサン=テグジュペリの思想、もしくは哲学は高邁と形容するのが似つかわしい、我が平凡な日常と脳みそからは遥か彼方の次元に生み出されており、それが小説という形で表されたとき、彼の哲学を知らずしてうまく飲み込むことができたかどうか私には怪しいからです。いや今もうまく飲み込めたかはわかりませんが。

 

さて、『人間の土地』は2014年に読んだものの中でもっとも感銘を受けたもので、しばしば危険な行為となりうる「本を(文学を)薦める」という行為にうつってしまうほどでした。薦めた友人も大変興味深く読んだとのこと。2014年に最も衝撃を受けた『一九八四年』も違う方に薦めてしまいましたが、そちらは、面白くないので途中でやめたという報告を受けるという結果にのみ終わりましたので、危険な行為であることには間違いありません。

 

素晴らしい文章の中から素晴らしい一節を引くことは、前後のコンテクストを排してしまいかねないこれまた危険な行為ですが、しかしその素晴らしさゆえに敢行します。

 

「努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じあうことだ。」

 

「人間であるということはとりもなおさず責任を持つことだ。人間であるということは、自分には関係がないと思われるような不幸な出来事に対して忸怩たることだ。人間であるということは、自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ。人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ。」

 

「たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめて僕らは幸福になりうる。そのときはじめて、ぼくらは平和に生き、平和に死ぬことができる。なぜかというに、生命にいみを与えるものは、また死にも意味を与えるはずだから。」

 

サン=テグジュペリは人々の中にいる「モーツァルト」が死んでゆくことに心を悩ましています。自分の中にモーツァルトがいることを信じて生きることは、なんと希望のあることか。しかし同時に、そう信じることによって生まれ得る苦しみというものにも思いを馳せてしまいます。ロビン・ウィリアムズ主演の『今を生きる』で、ロビン・ウィリアムズ演じるキーティングは同僚の先生に「芸術者たれと教えるのはいかがなものか、生徒が自分はモーツァルトじゃないと気づいたら恨まれるぞ」と言われます。「芸術家たれ、じゃなくて、自由思想者たれと言っているだけさ」とキーティングは返します。そして映画のあの結末。ううん、しかし僕らは希望を持って生きなければならない、人間として……。そのようなことを考えます。